とくになにもなし・・・・、参議院不要論が増える理由でもあるが・・・。

第165回国会 本会議 第4号
平成十八年十月三日(火曜日)
   午前十時一分開議
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○議事日程 第四号
  平成十八年十月三日
   午前十時開議
 第一 国務大臣の演説に関する件(第二日)
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○本日の会議に付した案件
 議事日程のとおり
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○議長(扇千景君) これより会議を開きます。
 日程第一 国務大臣の演説に関する件(第二日)
 去る九月二十九日の国務大臣の演説に対し、これより順次質疑を許します。伊藤基隆君。
   〔伊藤基隆君登壇、拍手〕
○伊藤基隆君 民主党の伊藤基隆です。
 私は、民主党・新緑風会を代表して、安倍晋三内閣総理大臣の所信表明演説に対する質問を行います。
 去る九月二十六日、安倍晋三内閣が誕生いたしました。これに先立つ自民党総裁選挙では、当初から予想されていたとおり、全体の三分の二を超える四百六十四票の圧倒的多数を得て自民党総裁に就任されたのであります。
 かつての自民党総裁選挙といえば、岸・石橋、池田・佐藤、三角大福、安竹宮等、その時代その時代の並みいる実力者がむき出しの権力闘争を繰り広げ、金と人事の空手形が乱れ飛んだと伝えられております。
 しかし、今回の総裁選挙では、テレビ映りに気遣い、党内こぞって勝ち馬に相乗りする結果となりました。議員経験十三年、団塊の世代をも一気に飛び越した戦後生まれの五十二歳、岸信介元首相の孫で安倍晋太郎元外相を父に持つ名門中の名門、スマートな容姿で戦後最年少の新総理を自民党は選んだのであります。
 一方、我が民主党は、さきの党大会で小沢一郎代表が再選を果たしました。政治生活三十七年、剛腕と呼ばれ、その実行力が注目を集め、また、あるときには批判を受けることで人間としての重みを増した見識に富む実力政治家を代表に選び、政権に挑戦することにいたしました。
 小選挙区制が導入されてから十年余り、ようやく政治改革の理念であった政権交代可能な二大政党制が名実ともに整いました。来年には天下分け目の参議院選挙、やがて本格的に政権を争うことになる総選挙が行われます。自民党が見た目を重視するならば、民主党は中身で勝負いたします。これより始まる本院での論戦が良識の府にふさわしい国民の期待にこたえるものとなるよう、議員各位の御協力をお願い申し上げる次第であります。
 安倍政権が五年半の小泉政治を引き継いで誕生したことは明らかであります。
 総理は、小泉政権が発足すると、前政権に引き続き内閣官房副長官に起用され、次いで小泉サプライズ人事として話題となる中で自民党幹事長に就任しました。その後も自民党幹事長代理、内閣官房長官を歴任し、この間、常に日の当たる道を歩んでまいりました。小泉のひな鳥が立派に巣立ったとの表現は実にうまく今日の総理の姿をとらえたものであります。
 まず、冒頭、小泉前首相と二人三脚で小泉内閣を支え、共同責任を持つべき立場の安倍総理が、小泉内閣の構造改革路線をどのような形で引き継ぐか、また何を引き継がないのかについて具体的にお答えください。
 今日、構造改革の光と影が徐々に明らかになっています。市場原理と規制緩和に代表されるこの五年半を経て、金融危機を食い止め、好調な中国経済に支えられるという幸運にも恵まれ、バブル崩壊後の日本経済が最悪の状態を脱したことは間違いありません。しかし、利益追求を優先する経済政策の下では、格差の拡大が生じ、多くの社会問題が浮かび上がっています。
 私は、安倍総理が今後、小泉政治をどう引き継ぐのか、また格差の拡大の問題にどう対処するのかという基本的な視点で、以下、国政上の重要課題について順次お聞きいたします。
 まず、具体的な質問に先立ち、去る九月六日の悠仁親王殿下の御誕生を心からお喜び申し上げます。皇位継承順位が第三位となる初めての男子の皇孫誕生は、多くの国民から、これで一安心という偽りのない気持ちで受け止められていることと思います。悠仁親王殿下の健やかな御成長を祈りつつも、一方では、皇室においては四十一年ぶりの男子誕生であり、皇孫世代の皇位継承者が一人だけという現実は、皇位継承問題の難しさと安定した皇位継承の必要性を改めて認識させるものであります。
 小泉内閣の下で設置された皇室典範に関する有識者会議では、昨年十一月に、皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要である、また、皇位継承順位は長子優先の制度が適当である旨を基本とする報告書を提出しました。これに基づき小泉内閣では皇室典範の改正の準備を進めている中で、秋篠宮妃殿下が御懐妊されたことにより、急遽この作業を中断して今日に至っているものと認識しております。
 この間、総理は、当時の官房長官としてこの問題に深く関与されてきましたが、今後、皇室典範改正問題についてどのように対処されるのか、総理の考えを伺います。
 国家の基本にかかわる問題として、憲法改正について伺います。
 総理は、「美しい国、日本」と題する総裁選挙用政策集の中で、政権の基本的方向性として、真っ先に「新たな時代を切り開く日本に相応しい憲法の制定」を掲げ、また具体的な政策では、「新たな憲法の制定に向けて取り組む」と明記しています。しかし、公明党との連立政権合意に憲法問題は一切触れられておりません。自民党内に対しては憲法改正に取り組み、公明党向けには憲法改正は俎上にのせないという矛盾した姿勢を取っているようにも見受けられます。
 総理は、憲法改正についてどのように考えているのですか。具体的に憲法のどこが問題で、どのように改正しようとしているのか。そして、安倍内閣としては今後どのように臨むつもりなのか、いつ、どのように憲法改正問題とかかわろうとしているか、明確にお答えいただきたいと思います。
 憲法改正の具体的テーマとして、憲法九条と集団的自衛権の問題についてお聞きします。
 集団的自衛権とは、同盟国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力阻止できる国際法上の権利ですが、極めて限定的にしか認められていないものです。それでも、憲法九条を持つ我が国の歴代内閣は、一貫して、集団的自衛権を行使することは我が国を防衛するため必要最小限度の範囲を超えるものであって、憲法上許されないという憲法解釈を行ってきました。
 昭和五十八年二月二十日の衆議院予算委員会で、公明党市川委員の質問に対して角田内閣法制局長官は、仮に、集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考えがあれば、憲法改正という手段を取らない限りできないと答え、また、同委員会で当時の安倍晋太郎外務大臣も明確にこの答弁を是認しています。しかし、総理は、最近出版された著書「美しい国へ」の中で、集団的自衛権については、「権利はあるが行使できない、とする論理が、はたしていつまで通用するのだろうか。」と論じており、これまでの政府見解に疑念を示されております。
 安倍内閣として、集団的自衛権に関する従来の政府が取ってきた憲法解釈を改めるつもりがあるのか、あるいは憲法を改正して集団的自衛権が行使できる道を選ぼうとしているのか、この点を明確にしていただきたいと思います。
 靖国神社参拝問題、総理の歴史認識について伺います。
 小泉前首相の靖国神社参拝をめぐる言動は、近隣諸国の人々に大きな衝撃をもって受け止められてきました。特に、これまで定期的に開催されてきた日中、日韓の首脳会談の中断はその影響の大きさを示すもので、早期の関係改善が求められています。まず、総理は日中、日韓の首脳会談の実現に向けてどのような努力を行っているのか、お聞かせください。
 総理は、靖国神社の参拝について、従来から、行くか行かないかについて言うつもりはないとの立場を取ってきました。果たして、民主主義国家の公人中の公人である日本の内閣総理大臣が、海外からも注目されている靖国神社参拝を内密にしておくことができるとでも思っているのでしょうか。
 また、総理は、国のために戦ってこられた方に手を合わせて尊崇の念を表するという気持ちを持ち続けていきたいとも述べています。しかし、さきの大戦では、国のために戦った人々を無理やり動員し、悲惨な結果をもたらした責任のある人の存在を忘れることはできません。
 総理は、八月十五日にA級戦犯が合祀されている靖国神社に参拝した小泉前首相の路線をも引き継ぐつもりでいるのか、この点を伺います。
 過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた歴史を受け止め、痛切な反省とおわびの気持ちを表明したのがいわゆる村山談話であります。この談話は、戦後五十年の終戦の日に当たり、当時の自民、社会、さきがけの三党連立内閣が日本の正式な見解を示したもので、その後の内閣もこれを踏襲し、小泉前首相も同じ認識を共有していることを明言しました。
 総理は、歴史認識については歴史家に任せるべきとの立場を繰り返しておりますが、改めてこの場で、さきの大戦をどのように評価し認識しているのか、お聞きします。また、この談話の内容を安倍内閣も受け継ぎ、尊重していく気持ちがあるのか、お答えください。
 次に、国民生活に関係する問題についてお聞きします。
 不良債権問題や金融危機は景気回復で企業収益が増加するにつれて解消に向かい、我が国の経済はようやく身動きができる状況となってきました。しかし、この間の景気回復のための諸施策は様々な格差の拡大を招いています。
 総理の著書「美しい国へ」の中で、構造改革が進んだ結果、格差が現れてきたのは、ある意味で自然なことでしょう、このとき大切なのはセーフティーネットの存在であるとの記述がありますが、総理の政治姿勢を端的に表現しています。
 ある民間の調査機関によると、昨年一億円以上の金融資産を持つ富裕層は全世帯の一・七%に当たる約八十六万世帯で、個人の金融資産総額の一七%に当たる二百十三兆円に達すると報じられています。これまで我が国は一億総中流社会とも言われ、比較的平等な社会を形成してきました。しかし、格差社会の進行で中流意識が打ち砕かれ、フリーターやニートと言われる階層が生まれつつあります。有名大学ほど学生の親は収入が多い傾向にあることは、格差の拡大が階層固定化の危機を示している一例ではないでしょうか。
 安倍内閣の閣僚の布陣も、格差の拡大は容認し再チャレンジ可能な社会を目指すということなのでしょうが、果たして現実に格差の固定化を避け、多くの国民が満足感を持つことができるのでしょうか。総理に格差の拡大問題に対する基本的な考えをお聞きします。
 総理は、ワーキングプアという言葉を御存じですか。「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢつと手を見る」、石川啄木の歌集「一握の砂」に収められた有名な一首がこのワーキングプアという言葉を見事に翻訳しています。
 働いても働いても豊かになれない、どんなに頑張っても報われない、今働く貧困層が急速に拡大しています。学校を出ても定職に就けず日雇の仕事で生活をしのぐ、そんな住所不定、無職の若者が大都市周辺地域で急増しています。当然のごとく正社員は狭き門で、今や三人に一人が非正規雇用、全女性では半数を超え、これらの比率は近年急速に高まっています。
 子供を抱える低所得者世帯では、食べていくのが精一杯で、子供の教育や将来に明るい希望を持てと言われても実感がわかないのが実情です。学校では、朝食を食べてこない、給食費が払えない、修学旅行に行けない、給食費や学用品、修学旅行などの就学支援を受けた小中学生の数は全体の一割を超える百三十三万人に達しているのです。日々の生活の中で現実に起きていることで、決して大げさな話をしているのではありません。
 石川啄木が「一握の砂」を刊行したのは明治四十三年、今から百年も前のことなのです。一世紀たっても同じ歌が心に響くようでは、余りに情けない話ではありませんか。
 総理に、非正規雇用が生んでいる問題点をどのように認識しているのか、また今後どのように対応していくか、考えを伺います。
 次に、製造現場における偽装請負問題について伺います。
 労働市場においても、構造改革の影響を受け、大幅な規制緩和が進んでおります。平成十六年から製造業でも労働者派遣が解禁され、非正規雇用が大幅に増加しています。今日、製造業の現場では、正規従業員と非正規雇用である派遣労働者と請負労働者が混在して仕事をしているのが実態です。同じ職場で同じ仕事をしながら賃金や労働時間、労働安全衛生などの労働条件が異なる、働く者の格差が拡大しています。必要なときにだけ安く使えて、あとは辞めさせられる、企業にとって都合が良い非正規雇用の数は製造業で百万人を超えています。
 この中で、労働者派遣事業法に違反する偽装請負が問題になっています。企業が、実態は派遣労働者であるのに、より低賃金の請負労働者と偽るケースです。労災事故を起こしながら、請負労働者なので直接雇用した者ではないということから労働基準監督署に報告すらしなかった悪質な実例も発生しています。
 非正規雇用にあっても、法令の遵守、労働安全衛生の向上、社会保険の加入など、公正な労働条件を確保するのは当然のことです。
 今後は、派遣労働や請負労働の受入れに当たって労使協議を義務付け、違法が判明した場合には受入れ企業が直接雇用しているとみなして責任を明確にするという措置が必要と考えますが、総理の御見解を伺います。違法な偽装請負の一掃に向けて今後どう指導監督を強化するつもりなのか、併せてお聞きいたします。
 特に若い世代を中心とした非正規雇用で働く人々は、必要な職業能力を身に付けられないまま、将来設計を描くことができず、少子化の一因とも言われ、日本の将来に暗い影を投げ掛けています。労働者派遣事業は常用型を原則とし、いわゆる登録型を廃止するという法律改正を行わない限り偽装請負問題の根本的な解決にならないと思いますが、総理の御見解をお伺いします。
 なお、雇用・年金問題については、民主党・新緑風会の平田健二議員より後ほど更に詳しく質問いたします。
 次に、財政問題について伺います。
 我が国の財政が国際的に見てもかつて類例がないほど悪化し、その健全化が重要な政治課題になっていることはもはや説明するまでもありません。総理は、財政の健全化には歳出削減を行うと述べています。自民党・公明党連立政権合意でも、国、地方の無駄な歳出を徹底的に排除するための財政改革を一体的に推進すると書かれております。無駄の排除や役割を終えた組織の見直しや変化に即応した制度改革が必要なことは言うまでもありません。しかし、歳出削減だけでは財政の健全化を果たすことができないと政府は既に認めております。
 小泉内閣は、この七月に骨太の方針を閣議決定しました。それによれば、国、地方の基礎的財政収支を平成二十三年度に黒字化することを目指し、そのために今後十一兆円から十四兆円の歳出削減を行うが、同時に、不足する二兆円から五兆円については何らかの増収策を講ずる必要があることが示されております。
 小泉内閣の置き土産とも言える二兆円から五兆円と言われる不足分について、総理はどのようにお考えかお聞きいたします。また、不足分にどのように対応するのか、具体的な工程表をお示ししていただきたいと思います。
 総理の総裁選挙用政策集には、消費税負担の在り方、総合的な税制改正の推進との項目が載っておりますが、具体的な説明はなされておりません。また、自民党・公明党連立政権合意の中には消費税の文字そのものが見当たりません。所信表明では、消費税については、逃げず、逃げ込まずという姿勢と演説されましたが、安倍内閣の任期中、具体的にどうするのですか。財政を確実に健全化するためには、歳出改革に優先的に取り組んだとしても増収策を講じなければならない状態で政権を引き継いだのであれば、総理は消費税について具体的な考え方を明らかにする責任があると思いますが、この点を伺います。
 次に、国政の諸問題についてお聞きします。
 総理は、教育再生を政権公約に掲げ、内閣に教育再生会議を設置することを決定し、専任とする首相補佐官を任命されました。
 まず、今日、何が教育の最大の問題点だと認識されているのか、総理に伺います。
 そもそも教育再生会議を設置する目的は何で、どのような内容について議論するのでしょうか。また、いつまでに結論を出すつもりですか。総理が意図するところをお聞かせください。
 他方、総理は、今国会での教育基本法改正を内閣の最重要課題に位置付けています。しかし、本来であれば、教育再生会議の結論を待って、総理の教育改革ビジョンに基づいた新たな改正案を出し直すのが筋ではありませんか。総理の考える教育再生と、現在国会で継続審議となっている教育基本法改正案は果たして完全に合致するものなのでしょうか。教育基本法改正を急がれる率直な理由をお聞かせ願います。
 なお、教育問題については、別途、同僚の鈴木寛議員より詳しく質問いたします。
 この五年半で中央と地方の格差が広がったことはだれの目にも明らかであります。容積率の規制緩和で高層ビルを建てられるようになった大都市の一部では、地価が上昇に転じています。一方、多くの地方都市の駅前は相変わらずシャッター通りと呼ばれる状態が続いています。
 小泉前首相の国から地方への掛け声の下、地方分権を進めるはずだったいわゆる三位一体改革、すなわち国庫補助負担金、税源移譲、地方交付税の一体改革は、極めて不十分な結果に終わりました。
 国庫補助負担金は、補助率引下げという手法を多用することで補助金配分の権限が国に残りました。地方交付税については、平成十六年度から三年間で約五兆一千億円を一方的に削減しただけです。後任の安倍内閣に多くの課題を押し付けることになったのが三位一体改革の結末です。
 今回の自民党・公明党連立政権合意には、地方分権推進法の新たな制定、税源移譲を伴う地方分権の断行と明記されています。総理は地方分権推進法案をいつまでに提出するのですか。その内容はどのようになるのでしょうか。また、税源移譲について、その具体的な金額を伺います。
 小泉政権五年半の間ほど金もうけ第一主義、効率至上主義、市場万能主義が日本の社会の中に浸透したことはありません。助け合いの心を見失い、金さえあればとの風潮は、ライブドア事件に象徴されています。
 また、金融機関は、公的資金十二兆円が投入される一方で、ゼロ金利・超低金利政策による利益を一身に受けてきました。いまだに五兆円もの返済残がありながら、消費者金融会社に多額の融資をして利ざやを稼いでいる現状です。さらに、顧客の利便性を顧みず、採算の合わない支店を次々に閉鎖し、窓口利用の小口顧客が長時間待たされることは今日では常識化しています。
 もちろん、日本の金融機関がグローバル化した国際金融競争の中で生き延びるために、効率性、採算性を追求することをすべて否定するものではありません。しかし、一般庶民が利用する身近な金融サービスがなくなっては国民が困るのです。
 これまで郵便局は、民間金融機関が支店を置かないような離島や過疎地帯にも店舗を置き、小口の郵便貯金の利用者を大切に扱ってきました。土曜、休日もATMの使用料を無料にし、ボランティア貯金のようなサービスも行っています。
 総理の主張される再チャレンジできる社会の実現のためにも、効率性、採算性の追求を目的とする金融機関だけではなく、これまで政府系金融機関等が果たしてきた役割を再認識すべきではないかと考えますが、総理の御見解をお聞きします。
 郵政事業の民営化について地方で話を聞くと、本当に地域の郵便局はなくならないのか、これまでと同じように郵便、貯金、保険、為替の利用ができるのか、地域に密着したサービスは継続されるのかとの不安の声が伝わってきます。こうした国民の不安に対しては真っ正面から耳を傾けるべきだと思いますが、総理のお考えをお聞きします。
 また、利用者の本当の声を一番知っているのは、毎日お客様と身近に接している職員です。国民により良いサービスを提供するために職員や郵便局長の声を十分に聞くべきだと思いますが、総理のお考えはいかがでしょうか。
 郵便局は、各地域で庶民の生活に密着した郵便、貯金、保険のサービスを提供し、国民の安心、安全のよりどころとなっています。日本が隅々まで美しい国であることはだれも否定しないと思います。そこでは人々が住み、日々の生活が営まれているのです。
 総理は、地域の温かさの再生、国の隅々における安心・安全体制の確立を掲げ、我が国の文化、伝統の大切さ、地域の重要性を認識されています。美しい地域の切捨てや、地域に根差した郵便局がなくなることがあってはならないと思いますが、総理の明確な答弁をお願いいたします。
 去る九月八日、米国上院情報特別委員会は、イラク戦争開戦前の情報活動に関する報告書を発表しました。これは、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていた、フセイン政権の大量破壊兵器疑惑やフセイン政権とアルカイダの関係についての情報を検証したものです。
 この中で、フセイン政権がウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はないと断定し、また、大量破壊兵器製造計画についても存在しなかったと結論付けています。ブッシュ政権が挙げた開戦理由がことごとく覆され、イラク戦争の大義が否定された内容となっているのです。
 当時の米国政府の説明をうのみにしてイラク攻撃を支持した日本政府はその前提を失うことになりますが、総理は、米国政府が日本に対して誤った情報をもってイラク情勢を説明したことについてはどのように考えているのかお答えください。
 さらに、九月二十六日には、米国政府は国際的テロリズム動向と題する機密報告書の内容を公開しています。
 この国際テロの動向とイラク戦争の関係を分析した報告書によれば、イラク戦争は全体としてテロ問題を悪化させたと結論付けています。これは、イラク戦争で世界はより安全になったというブッシュ大統領の主張を真っ向から否定するものです。米国内のイラク戦争に対する評価に明らかな変化が見られますが、総理はこの報告書の内容をどのように評価するか、伺います。
 イラクからの陸上自衛隊の撤退は完了したものの、逆に航空自衛隊の活動範囲は明らかに危険が予想され、とても非戦闘地域と呼べないバグダッド空港やイラク北部地域にまで拡大されています。一体、航空自衛隊をどの段階で撤退させることになるのか、出口戦略についてどのように考えているのか、総理の見解を伺います。
 在日米軍基地とその機能の再編問題では、少なくとも基地負担を抱える地元の理解と合意が必要です。しかし、対米一辺倒の小泉内閣は、日米合意を優先し、国民や地元自治体への説明を先送りしてきました。
 また、地元に対しては、説明し理解を求めると繰り返してきましたが、合意を得るという言葉は聞いたことがありません。地元の合意は必要ないと考えているのか、この点について総理に伺います。
 日米合意及び閣議決定について、国会や自治体、住民の頭越しに政府間合意を優先させた手法は、日米同盟の最大の基盤であるべき国民の信頼を損ねるものです。政府は、日米地位協定の改定、普天間飛行場閉鎖の早期実現、自治体との協議推進体制の確立、犯罪や事故の防止、騒音対策などを通じて国民の懸念にこたえるべきだと思いますが、総理の御見解を伺います。
 今年の五月、当時官房長官であった総理は、米軍再編に伴う日本側の負担について、三兆円という金額が米高官の口から出たことを尋ねられ、途方もない金額なのでコメントは差し控えたいとだけ答え、国民に新たな財政負担への不安をかき立てました。
 言うまでもないことですが、支払われるのは日本国民の税金です。相手の言い値を丸のみにするようなことがあっては、到底納得できません。現時点では、日本側負担の概要は明らかになっていると思いますので、改めて総額と内訳、そのための財源についてお聞きします。
 去る八月十五日の終戦の日、小泉前首相が靖国神社に参拝し、世上騒然となったあの日に、加藤紘一元自民党幹事長の実家が右翼団体構成員に放火され、全焼する事件が起きました。
 加藤代議士の発言に不満を持つ者の犯行で、言論封殺を目的とする暴力、政治的テロ行為であったことは明らかです。自由と民主主義を守るためにも、言論に対する暴力に対しては毅然たる態度を取ることが必要だと思いますが、総理のこの事件に対する見解を伺います。
 この五年半、小泉前首相の下で、ただ一人、一貫して国務大臣を務めた竹中平蔵君が、このたび任期の途中で参議院議員を辞職しました。
 政治は何のためにあるのか。私は、政治は弱い人、困っている人のためにあるのだと信じている一人です。市場原理の中で規制緩和を行えば、競争のエネルギーが高まり、経済の規模が拡大する、そのことが一番大切だと考えて構造改革を進めてきた人とは異なる考え方であります。結局は、経済成長率や株価の数字に興味があっても、構造改革の結果困っている国民が出てくるという問題には関心がなく、途中で仕事を辞めることができたのだと思うしかありません。
 政治は国民の生活をテーマとしています。日々の庶民の暮らしをどう安定させるのかが政治の課題です。政治が間違いを起こせば、個人や家族や人間関係、そして地域社会にも重大な影響が出るのです。庶民の暮らしそのものを壊してしまうこともあるのです。
 警察庁の専門家の話では、景気が悪くなると一番単純な強盗が増えるそうです。平成元年は約千六百件、平成十六年は約七千三百件、バブルの崩壊後、顕著な傾向が数字に表れています。安全はただと言われ、安心して暮らせた日本の社会はもう過去のものです。
 最近、若い人たちに将来何になりたいかと聞くと、正社員になりたいという返事が返ってきます。青年から希望が失われているのです。日本の社会が、一部の豊かな人々と、かなりの数の生活が苦しい人々に分かれ始めていることを感じないわけにいきません。
 この五年半で日本の社会にゆがみが生じたことは間違いありません。これから何年間かの政治は、成長が期待できる分野に目を向けるだけではなく、人々がつまずいた分野の立て直しに力を入れなくてはならないことを私は強調しておきたいと思います。
 総理ほど恵まれた政治家はそうたくさんはおりません。それだけに、苦しい立場の人、弱い立場の人を大切にする政治を忘れないでいただきたいと思うのであります。
 最後に、日本の社会に階層分化が生じつつある中で、確実に増加している将来への希望を見いだせない人々に対してどのような政治を行うのか、総理の御見解を伺って、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 小泉内閣の構造改革路線をどのような形で引き継ぐかについてお尋ねがありました。
 この五年半にわたる構造改革と国民の自助努力の相乗効果により、我が国は長い停滞のトンネルを抜け出し、未来への明るい展望が開けてきたと認識しており、今後もこの改革の炎を燃やし続けていきたいと考えております。
 一方、都市と地方の間における不均衡や、いわゆる勝ち組、負け組が固定化することへの懸念など、解決すべき課題も存在しております。このため、内閣の重要課題として、前向きに取り組む地方のための頑張る地方応援プログラムや総合的な再チャレンジ支援策を推進してまいります。
 このように、小泉総理が進めてきた構造改革をしっかりと引き継ぎ、改革を加速させ、補強してまいります。
 皇室典範の改正についてお尋ねがありました。
 皇位の継承は国家の基本にかかわる事項であり、制度として安定的な皇位の継承を維持することは我が国にとって極めて重要であるとの認識に立ち、皇室典範の改正について、慎重に、かつ冷静に、国民各層に賛同が得られるようしっかりと議論を重ねていく必要があると考えております。
 憲法改正についてのお尋ねがありました。
 国の理想、形を物語るのは憲法であります。現行の憲法は、日本が占領されている時代に制定され、また、六十年近くを経て現在にそぐわないものとなっています。私は、今こそ私たち自身の手で二十一世紀にふさわしい日本の未来の姿あるいは理想を憲法として書き上げていくことが必要であると考えています。
 今後、与野党において議論が深められ、方向性がしっかりと出てくることを願っております。まずは、日本国憲法の改正手続に関する法律案の早期成立を期待します。
 集団的自衛権と憲法改正についてのお尋ねがありました。
 政府としては、これまでの憲法解釈や国会における議論の積み重ねを十分に尊重しつつ、大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘いといった国際情勢の変化や、武器技術の進歩、我が国の国際貢献に対する期待の高まりなどを踏まえ、日米同盟がより効果的に機能し平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究してまいります。
 憲法改正については、与野党において議論が深められ、方向性がしっかりと出てくることを願っております。
 日中、日韓の首脳会談についてお尋ねがありました。
 大事な隣国である中国、韓国とは、あらゆるレベルと分野で対話と協力を積み重ね、双方の努力を通じて未来志向の関係を築いていきます。両国との首脳会談については、常にドアをオープンにしてきており、その実現に向けて双方で努力していきます。国が違えば認識が違うこともあります。そういうときこそ、首脳同士が会い、胸襟を開いて対話していくことが大切と考えています。
 私の靖国神社参拝についてのお尋ねがありました。
 お尋ねの八月十五日にA級戦犯が合祀されている靖国神社に参拝した小泉前首相の路線が何を意味しているかについて必ずしもつまびらかではありませんが、靖国神社参拝につきましては、国のために戦って尊い命を犠牲にした方々に対して手を合わせ、御冥福をお祈りし、尊崇の念を表する気持ちは持ち続けていきたいと思っております。
 歴史認識についてのお尋ねがありました。
 さきの大戦をめぐる政府としての認識については、平成七年八月十五日及び平成十七年八月十五日の内閣総理大臣談話等において示されてきているとおり、我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたというものであります。
 格差の拡大問題に対する基本的な考え方についてお尋ねがありました。
 我が国は、長い停滞のトンネルを抜け出し、未来への明るい展望が開けてきたと認識しておりますが、他方、都市と地方の間における不均衡や、いわゆる勝ち組、負け組が固定化することへの懸念など、解決すべき課題が存在しております。このため、内閣の重要課題として、前向きに取り組む地方のための頑張る地方応援プログラムや、総合的な再チャレンジ支援策を推進してまいります。
 非正規雇用が生む問題点と今後の対応についてお尋ねがありました。
 近年、フリーターなど若年者を中心に非正規雇用が増加していることについては、将来の格差拡大や少子化につながるおそれもあり、十分な注意が必要と考えております。また、正規、非正規を問わず、どのような働き方を選択しても安心、納得して働くことのできる環境の整備がより重要な課題となっていると認識をしております。
 このため、フリーター二十五万人常用雇用化プラン等を推進し、二〇一〇年までにフリーターをピーク時の八割に減らすとともに、正規・非正規労働者間の均衡処遇の実現に向け法的整備を含めた検討を進めるなど、若者を始め、だれもが自らの能力や持ち味を十分発揮できる環境の整備を推進してまいります。
 偽装請負に関してお尋ねがありました。
 労働者派遣法に違反するいわゆる偽装請負については、安全衛生等の事業者責任の所在があいまいとなり、労働災害の発生につながるなどの問題があるものと認識しております。このため、周知啓発の強化、指導監督の強化、悪質な違反が認められた事業主に対する厳格な対応等を行い、偽装請負の防止、解消を図ってまいります。
 議員からの御提案につきましては、法律的強制になじむか否かという点や、労働者側のニーズをも考慮する必要があり、慎重に考えるべきであります。
 歳出歳入一体改革における歳出改革による不足分への対応についてお尋ねがありました。
 基本方針二〇〇六においては、今後五年間の歳出削減について政府・与党一体となって徹底した検討を行った結果として、各分野における取組の具体的内容と金額が定められたところであり、私としては、国民負担の最小化を第一の目標に、この方針に沿って、まずは歳出削減を徹底することが重要と考えております。
 このような歳出削減や行政改革等を徹底して実施した上で、それでも対応し切れない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保するため、抜本的、一体的な税制改革を推進し、将来世代への負担の先送りを行わないようにします。
 現在の諸情勢を勘案すれば、十九年度予算の歳出削減の状況、来年七月ごろに判明する十八年度決算の状況、医療制度改革を踏まえた社会保障給付の実績等を見る必要があり、これらを踏まえて税制改革の本格的、具体的な議論を行うのは来年秋以降になると考えております。
 いずれにせよ、財政再建の重要性にかんがみ、平成十九年度予算については従来の改革努力を継続し、徹底した歳出削減に取り組んでまいります。
 消費税に対する具体的な考え方についてのお尋ねがありました。
 ただいま申し上げたとおり、歳出削減等を徹底して実施した上で、それでも対応し切れない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保するため、抜本的、一体的な税制改革を推進し、将来世代への負担の先送りを行わないようにします。
 消費税については、このような抜本的、一体的な税制改革の中で議論を行っていく必要があると考えております。
 教育についてお尋ねがございました。
 私の目指す「美しい国、日本」を実現するためには、次代を背負って立つ子供や若者の育成が不可欠ですが、近年、子供のモラルや学ぶ意欲が低下しており、子供を取り巻く家庭や地域の教育力の低下も指摘されています。
 このため、家族、地域、国、そして命を大切にする豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に向け、教育再生を国政の最重要課題の一つと位置付けて取り組んでまいります。
 教育基本法については、新しい時代の教育の基本理念を明確に提示し、国民の共通理解を図りつつ、社会全体による教育改革を着実に進め、我が国の未来を切り開く教育を実現するにふさわしい法案として前国会に提出したところであり、まずは、教育再生に向けた第一歩として今国会における本法案の成立を期してしっかりと取り組んでまいります。
 また、このような理念の下、すべての子供に高い学力と規範意識を身に付ける機会を保障するため、公教育を再生します。このため、内閣に教育再生会議を早急に発足させ、その推進を図ります。
 地方分権推進法案についてのお尋ねがありました。
 地方の活力なくして国の活力はありません。やる気のある地方が自由に独自の施策を展開し魅力ある地方に生まれ変わるよう、必要となる体制の整備を含め地方分権を進めます。政府では、そのための推進法案を今国会に提出するべく準備をしています。また、その内容については現在検討しているところであり、申し上げる段階にはありません。
 税源移譲についてお尋ねがありました。
 地方分権に向けて、関係法令の一括した見直し等により国と地方の役割分担の見直しを進めるとともに、国の関与、国庫補助負担金の廃止、縮小等を図ります。
 地方税については、国、地方の財政状況を踏まえつつ、交付税、補助金の見直しと併せ、税源移譲を含めた税源配分の見直しを行うなど、一体的な検討を図ることとしており、その規模等についてもその中で検討をしてまいります。
 再チャレンジできる社会の実現のための政策金融機関の役割に関するお尋ねがありました。
 我が国経済社会の活力を高めるためには、勝ち組と負け組が固定化せず、だれでも再チャレンジが可能な社会を構築することが重要であります。再チャレンジする起業家の資金調達を支援するため、政府系金融機関による融資の枠組みの創設等を検討してまいります。
 郵政民営化について、地方でのサービス低下の懸念についてのお尋ねがありました。
 現在、郵便局において提供されている郵便、貯金、保険のサービスにつきましては、郵政民営化関連法により、民営化後も引き続き郵便局において提供されるよう実効性のある仕組みをつくっておりますが、万が一にも国民の利便に支障が生じないよう、今後も国民の不安に対し十分耳を傾けてまいります。
 郵政民営化について、より良いサービスの提供についてのお尋ねがありました。
 職員や郵便局長を通じた利用者の声を含めて幅広く国民のニーズを把握し、多様で良質なサービスが提供され、国民の利便が向上するよう、郵政民営化を確実かつ円滑に実施してまいります。
 地域に根差した郵便局がなくなることがあってはならないとの指摘がありました。
 地方の活力なくして国の活力はありません。今回の郵政民営化においては、必要な郵便局ネットワークの水準が維持されるように制度設計がなされており、地域に根差した郵便局がなくなったり美しい地域の切捨てにつながることはないと考えております。
 対イラク武力行使の際の米国政府の説明につきお尋ねがありました。
 イラク情勢に関して、我が国は同盟国である米国との間で緊密に意見交換を行ってきていますが、イラクが過去実際に大量破壊兵器を使用した事実や、国連査察団が数々の未解決の問題を指摘したこと等にかんがみれば、対イラク武力行使が開始された当時、イラクに大量破壊兵器が存在すると信じるに足る理由があったと考えます。
 いずれにせよ、我が国が対イラク武力行使を支持したのは、イラクが十二年間にわたって累次の国連安保理決議に違反し続け、平和的解決の機会を生かさず、国際社会の真摯な努力に最後までこたえようとしなかったからであります。これは正しい決定であったと現在でも考えています。
 米国政府が公表した国際テロリズムの動向と題する報告書についてお尋ねがありました。
 この報告書は米国政府の内部文書の一部が公表されたもので、米国にとっての影響という観点から、国際テロリズムの現状と今後を分析したものと承知していますが、我が国政府としてはこの報告書の評価についてコメントする立場にはありません。
 いずれにせよ、テロはいかなる理由をもってしても正当化できず、これは断固として非難されるべきものであります。我が国としても、テロとの闘いを自らの安全確保の問題として、国際社会と一致結束して対処してまいります。
 イラクに派遣された自衛隊の活動終了についてのお尋ねがありました。
 今後のイラクにおける空自の活動の在り方については、治安状況、国連及び多国籍軍の動向や構成の変化等の任務遂行面での諸状況を十分に見極め、さらにイラクの政情や復興の進捗状況などをも十分に勘案した上で適切に判断してまいることとしております。
 在日米軍再編に係る地元調整についてのお尋ねがありました。
 在日米軍再編は、抑止力を維持しつつ、地元の負担を軽減するものであり、是非とも実現しなければなりません。このためには、地元地方公共団体を含め、国民の十分な理解を得ることが肝要であります。
 政府としては、今後とも沖縄県など地元の切実な声によく耳を傾け、地域振興策などについてもしっかりと取り組むことにより、米軍再編を着実に進めてまいります。
 普天間飛行場の移転、返還を含む在日米軍再編の進め方についてのお尋ねがありました。
 在日米軍再編は、抑止力を維持しつつ、地元の負担を軽減するものであり、是非とも実現させなければなりません。政府としても、今後とも沖縄県などの地元の切実な声によく耳を傾け、地域振興策などについてもしっかりと取り組むことにより、米軍再編を着実に進めてまいります。
 また、引き続き日米地位協定の運用の改善に努めるとともに、米側に対し、事件、事故の防止策を徹底し、飛行場周辺住民への騒音の影響を最小限にとどめるよう求めてまいります。
 在日米軍再編に係る日本側負担の総額、内訳及び財源についてお尋ねがありました。
 在日米軍再編に伴う日本側の経費負担については、現在、再編案の詳細な計画等について日米間で検討しているところでもあり、具体的に申し上げる段階ではありません。今後、所要の経費を精査していくことになりますが、厳しい財政事情を踏まえ、政府部内で鋭意検討を進めてまいります。
 言論への暴力に対する見解についてのお尋ねがありました。
 加藤紘一議員の実家が放火された事件については、今後、裁判を通じて明らかにされると思いますが、いずれにいたしましても、暴力で言論を弾圧する、自由な発言を弾圧をするということは、自由と民主主義、そして基本的な人権、法律の支配という大切な価値を守ってきた日本では許されないことであると考えております。
 今後、私がどのような政治を行うのかについてお尋ねがありました。
 私は、特定の団体や個人のための政治を行うつもりは一切ありません。額に汗して勤勉に働き、家族を愛し、自分の暮らす地域やふるさとを良くしたいと思い、日本の未来を信じたいと願っている人々、そしてすべての国民の期待にこたえる政治を行ってまいります。
 新たな日本が目指すべきは、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわちチャンスにあふれ、だれでも再チャレンジが可能な社会であります。格差を感じる人がいれば、その人に光を当ててまいります。このため私は、内閣の重要課題として総合的な再チャレンジ支援策を推進してまいります。(拍手)
    ─────────────
○議長(扇千景君) 片山虎之助君。
   〔片山虎之助君登壇、拍手〕
○片山虎之助君 私は、自由民主党を代表して、総理に質問いたします。
 質問に先立ち、一言申し上げます。
 去る九月六日、秋篠宮家には、四十一年ぶりの男子皇族として、御長男悠仁親王殿下が御誕生になりました。
 国民ひとしく喜びとするところであり、こぞってお祝いいたしますとともに、秋篠宮御夫妻の御健勝と悠仁親王殿下の健やかな御生育をお祈り申し上げます。
 昨年は、小泉総理の下、皇室典範に関する有識者会議が典範改正に向け論議をし、報告書をまとめましたが、いささか拙速ではないかという意見もあり、その国会提出は見送られました。しかしながら、将来にわたり皇位継承を安定的に維持するための検討は、このたびの男子皇族の御誕生にかかわらず、古代以来、我が国にあって長く歴史を有する皇室の維持のためには必要不可欠であります。
 政府は、国会での論議、また広く国民の声に耳を傾け、引き続き急がず遅れず慎重な検討を続け、正しい結論を得る努力をすべきであることをこの際申し添えておきます。
 さて、安倍総理、第九十代内閣総理大臣御就任、誠におめでとうございます。
 総理は、小泉前総理の下、自由民主党幹事長、官房長官などを歴任され、歴史の転換期の中で新しい時代に対応する仕組みの下地を築いてこられました。そして、このたび、自由民主党総裁選挙で圧勝された後、衆参両院で指名され、戦後生まれ初の内閣総理大臣となり、美しい国づくり内閣を発足されました。
 自由民主党の総裁選挙や所信表明で披瀝された総理の国家観、歴史観に裏打ちされた政治姿勢や政策課題などを伺うとき、正に今時代が求める、それゆえに多くの国民が期待する総理の誕生であると歓迎いたします。
 どうか美しい国づくりという変わらぬ志の下、正しく強いリーダーシップを発揮されますことをまず冒頭に要望いたします。
 現代は歴史の大きな転換期にあると言われております。小泉前総理は、従来の社会システムにこだわる与党議員をも抵抗勢力と呼び、あえて経済財政諮問会議などを重用した政策決定により改革を進めてまいりました。五年半に及ぶそうした改革により従来型システムはほぼ破壊され、自民党自身も郵政解散などによって変わり、小泉前総理は、昨年後半辺りからは与党との調整を重視する決定システムに転換されたように思います。
 ところが、総理は、今回、教育再生会議の早急な発足を表明されました。日本版NSC、国家安全保障会議の創設も示唆されております。また、総理補佐官もテーマごとに五人決定されました。官邸スタッフも各省庁からノーリターンを建前とした公募制で行われました。
 言うまでもなく日本は、行政権力が集中し議会と分立している大統領制ではなく、行政権力が分散し政府・与党が一体であるべき議院内閣制を取っております。政策決定の方法はいろいろあり一長一短ですが、総理は議院内閣制下における政策決定について、小泉政権下の在り方を踏まえ、どのようにお考えか、お伺いいたします。
 また、各省大臣と総理補佐官の関係も、しっかりと整理して権限を限定し、分担と協力の仕組みを明らかにしなければ、二重行政となり混乱します。総理の見解を伺います。
 さらに、官邸主導で各省庁の縦割りセクショナリズムを排し一元化する、結構でありますが、望むべくは、権力によるのでなく、各省庁が進んで官邸の考えに同化し、全面的協力を惜しまない姿勢とすることが肝要であります。これまた総理の御所見を伺います。
 総理は、六十年間、これまでなおざりにされてきた憲法改正や教育改革など、国の根幹にかかわる問題の改革に意欲を示しておられます。しかし、こうした大きな政治課題を達成していくためには、同じ理念、同じ政策を持つ大きな政治勢力の結集が必要であります。総理の理念、政策に共鳴する人たちは、以前自民党所属だった議員の方々だけではなく、他党所属議員の中にも多数おられると仄聞しております。
 美しい国づくりを精力的に進める上で、言わば保守勢力の大結集を図るため、そうした方々への呼び掛けを行い、結集を具体化していくことが是非とも必要と思いますが、総理の率直なお考えをお伺いします。
 総理は総裁選の公約で、家族の価値や地域の温かさの再生を訴えられ、それは、著書「美しい国へ」でも、所信表明でも明らかにされています。
 家族と地域社会を再生しようということについては、私も全く同感であります。私も昨年一月に「共存共栄の思想」という著書を著し、その中で、弱肉強食の競争社会ではなく、共存共栄とお互いの助け合いの精神が行き届いた協調社会をつくるため、家庭と地域コミュニティーの再興を、と主張いたしました。家庭と地域社会の崩壊が叫ばれて久しいものがあります。また、戦前の滅私奉公が良いとは思いませんが、現在の滅公奉私の状況を放置すれば地域社会も国家も成り立ちません。
 問題は、いかにして家庭と地域社会の再興を図り、奉私奉公、私とともに公への奉仕の精神を取り戻すかであり、それができれば、総理が言われる子育てフレンドリーな社会も実現され、世界一安全な国日本が復活すると考えます。
 このことは、単なる主張や批判だけではできません。行政も教育もメディアもすべてを動員し、政治がイニシアチブを取って行動を起こし、国民の中に助け合いの精神をはぐくみ、公に尽くす社会原理や制度的な枠組みを作り上げていくことであります。この問題は、美しい国づくりを成し遂げる上で避けて通れません。
 総理の基本認識と今後の具体的な政策展開につき、お伺いします。
 次に、憲法問題について伺います。
 総理は、自主憲法制定への思いをあちこちで表明されています。既に我が党は、昨年十一月の立党五十年記念党大会において新憲法草案を公表いたしました。
 そこで、総理は自民党総裁として、この党がまとめた草案を全面的に支持されているのかどうか、前文についてどう評価されているのか、さらには、国民投票法案の早期成立についての御認識をお聞かせください。
 次に、集団的自衛権についてであります。
 総理は、日米同盟がより効果的に機能するため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究すると述べられておられます。
 私は、日米同盟の双務性向上のため、日本の周辺国有事に限って必要最小限度の範囲内で自国の安全を確保するための自衛権の発動は可能とする解釈変更を研究することに意味がないとは思いません。言わば、個別的自衛権の拡大とも言ってよく、集団的自衛権との接点に当たる部分の研究だからであります。
 しかし、集団的自衛権プロパーについては、何十年にもわたる国会答弁の積み重ねを考えるとき、我が国の自衛のため必要最小限度という限定を付けるにしても、解釈変更でそれを認めることには無理があります。
 集団的自衛権そのものを認知するには、やはり憲法を改正する必要があると考えますが、総理の明快な答弁を求めます。
 次に、我が国外交の諸問題についてです。
 総理は、主張する外交を提唱されています。
 七月の北朝鮮のミサイル発射の際における我が国外交は、官房長官だった総理と外務省の連係プレーによって大きな成果を上げましたが、これこそ私は主張する外交だと理解します。我が国外交も、やればできるのです。
 そこで、総理は所信表明で、安保理の常任理事国入りを目指す意思を明確に表明されました。私も全く同感であり、既に我が国は常任理事国としての資格は十分備わっていると考えます。ただし、この実現に向けては、昨年の安保理改革の失敗をしっかりと反省して、戦略を練り直すことが必要です。
 我が国の安保理入りにはクリアすべき幾つもの課題がありますが、最も大きなものが、日本の理事国入りは支持するものの、理事国の拡大には難色を示す米国をいかに説得するかという点であります。この米国の協力を受けた上で、アフリカなど多くの支持や近隣国の理解を同時に得ることは困難を極める作業だと思いますが、主張する外交の一つの目標としてこれを是非成功させていただきたい。総理のリーダーシップを期待し、改めて決意を伺います。
 対アジア外交の再構築の重要性は論をまちません。総理は、十月上旬以降、訪中、訪韓を計画、両国との首脳会談開催を調整中とのことでありますが、事実なら誠に時宜を得たものと考えます。ここでも柔軟で誠意ある主張する外交を展開し、事態を打開していただきたいと存じます。
 特に、日中、日韓間で最大の障害となっている靖国参拝問題は、ともに外交カードとしないことが我が国及び両国にとって良識ある判断であり、それぞれの国益にもかなうということを理解し合うことが必要であります。
 私は、かねてから、靖国参拝問題は棚上げないし凍結すべきと主張してまいりました。
 この問題は、長い経緯とお互いの論理があり、それを真正面からぶつけるだけでは何の進展もありません。この問題を大人の知恵として、向こうも言わない、こちらも考えることとして凍結できないか。こちらの考える中身は、参拝をするかしないか、する場合はその仕方、その説明をどうするかであります。一方で、政府間の絶えざる対話と多元的、重層的な交流促進で信頼を積み上げていく、その上で冷静に歴史認識を検証し、食い違いは違いとして認めながら、お互いをパートナーとする共存共栄の関係を構築していけないかということであります。特に、両国には、我が国の戦前、戦時中の歴史のみを強調する教育等は考え直してもらい、我が国の戦後六十年にわたる一貫した平和愛好、国際貢献、アジア諸国への友好協力への歩みも理解してもらった上で、靖国参拝が平和、不戦を願うものであることを十分に説明することが重要であります。
 総理ならそれができると思いますが、総理の御所見を伺いたい。
 北朝鮮問題、特に拉致問題に関しては、これに積極的に取り組んできた総理に対する被害者家族や国民からの期待は誠に大きいものがあります。早速、拉致対策本部の設置を表明され、官房長官に拉致問題担当を兼ねさせ、拉致問題担当の総理補佐官として中山さんを任命されましたことは、内閣全体として拉致問題に取り組むというメッセージと受け止めており、高く評価します。
 そこで、この問題を早期に動かすことができる具体的な手だてや戦略としていかなることをお考えなのか、総理に伺います。
 参議院では、決算とODAの重視を参議院改革の一環として精力的に取り組んでまいりました。前国会冒頭にはODA特別委員会を設置するとともに、海外に積極的にODA調査団を派遣するなど、ODA施策を厳しくチェックし、戦略的、効果的なものとなるよう、参議院全体で責任を持って取り組んでいくことをここに強く表明します。政府においては、今後一層緊張感を持ってODAの企画立案、実施に当たっていただくよう要請します。
 私は、ODAについては、各国に対し平等でなく、戦略的に選択と集中を図り、効果、効率を見ながら我が国の国益に沿うような形で重点配分すべきだと考えております。特に、これからは、ODA実施の判断基準として、我が国の国策、我が国の国益に対しどのような行動を取ったかを十分考慮すべきであります。
 今後、総理が主宰する海外経済協力会議の活用を図って、ODAを真に意味のあるものとすることを願い、総理の決意を伺います。
 景気の動向については、海外景気や原油価格、その他国内金利の上方修正の動きなど心配される面があるものの、今のところ、腰折れなく回復が続くという予想が多く、特に景気が急速に後退するとの見方はないようであります。今年十一月まで景気回復が続けばその期間が五十八か月となり、戦後最長と言われたイザナギ景気を超えることになります。政府としても、この景気回復を長期化させる基本的な政策としてイノベーションの力とオープンな姿勢を打ち出していますが、その力強い実行を強く期待いたします。
 小泉政権の終盤になって、光と影、格差の拡大といった言葉が政権の経済政策批判に多用されましたが、やや意図的に使われた感じはあるものの、それが日本経済の一面を的確に表現したものであることは確かです。マクロ経済の好調が続く中で、取り残された地方経済や中小企業が存在することは認めざるを得ません。また、地方を支える農林水産業も厳しい環境下にあり、中核的担い手の確保も容易ではありません。フリーターやニートの存在も深刻であります。
 政府として、こうした問題をいかに認識し、格差解消、再チャレンジをどのように推進していくのか、お伺いします。
 小泉政権による財政構造の見直しにより、全体的な歳出の抑制が行われ、全体の健全化は進んだものの、削減された分野や地方ではもう限界にまで来ているとの悲鳴に近い声もあります。
 さて、今年の骨太方針では、引き続き財政の健全化に向けて歳出歳入の一体改革を推進することが大きな柱になっています。歳入歳出一体改革では、二〇一一年度までの基礎的財政収支の黒字化を視野に入れて、自然体で歳出を増やした場合の要対応額十六・五兆円と、そこまでの分野ごとの削減額、十四・三兆円から十一・四兆円が目標として明示されました。そして、この両者の差額を主として税制改革により対応することとしています。
 新政権では、この歳入歳出一体改革の具体的な削減目標をしっかり見据えながら来年度の予算編成が行われるものと存じます。総理はこの歳入歳出一体改革を更に見直し、一層削減を進めることをお考えなのかどうか、今後の財政構造改革に臨む姿勢をお伺いします。
 参議院自民党では、歳入歳出一体改革の取りまとめの中で積極的に各分野の改革の在り方を議論しました。結果、現在の経済状況、特に地方経済に対する配慮が必要であることから、地方六団体などの要望も入れ、公共事業、地方単独事業の削減幅の縮小、地方財政の円滑な運営、とりわけ地方交付税の確保について申入れを行い、それが取り入れられました。さらに、経済社会情勢の変化に応じる弾力条項やローリングシステムも盛り込まれました。
 このような一連の修正で歳入歳出一体改革がより柔軟で実現可能なものになるとともに、地方もどうにか元気を取り戻したと考えますが、総理の御所見を伺います。
 総理は、消費税に関して、消費税から逃げるつもりもないし、逃げ込むつもりもないとの立場であります。まず、高めの経済成長を実現することで税の増収を図り、歳出削減も一段と進めることに財政健全化の主眼を置いているようであります。
 その方針に異存はありませんが、将来的な社会保障費の増加、基礎年金国庫負担の引上げ、国、地方の累積債務の圧縮などから、消費税の見直しが必要なことは国民のコンセンサスでもあり、また、野党もそのことを認めています。見直しの内容はともかく、改正への道筋について明らかにしておくことが国民の理解も得やすいのではないかと考えます。
 私は、平成十九年の年末の税制改革で結論を出し、平成二十年の通常国会で法改正を行うのがいいのではないかと考えます。その実施時期については、平成二十一年度の基礎年金国庫負担の二分の一への引上げがあり、平成二十年度からがいいのか、二十一年度がよいのか、議論の余地がありますが、自民党税調、あるいは与党税協で十分議論していくべきだと考えます。あらかじめ、消費税を必ず上げる、率はこれだけと決める必要もなく、絶対上げないと頑張る必要もありません。上げるとすればタイミングと上げ幅が焦点でありますが、それは慎重に、他の税目も含め総合的に検討を行い、国民の十分な理解と納得を得てからでないとできないと考えます。総理の御所見を伺います。
 次に、地方分権についてお伺いします。
 地方分権は、小泉政権下、党幹事長、官房長官としての総理の御尽力もあり、平成の市町村大合併、三位一体改革の推進など相当に進展してまいりました。しかし、まだまだ地方の自主性の拡大など課題が多く、更に改革を断行していくことが求められております。
 そこで、地方分権改革のため、これからの推進の枠組みを定める言わば推進法をできる限り速やかに制定する必要があり、この臨時国会に提出すべきだと考えますが、総理のお考えをお伺いします。一方、今後の社会保障などにおける国と地方の役割分担の見直しや、新たな国庫補助負担金の整理合理化などを盛り込んだ、かつての一括法のような法案はもう少し時間を掛け、来年の通常国会以降に提出すべきだと考えます。
 総理は、道州制ビジョンの策定を提唱され、新たに道州制担当の特命大臣を置かれました。今後の道州制の推進には、政府として道州制に関する国民的な議論を加速させること、それに合わせて導入の工程表を検討することが必要です。道州制の議論が高まるにつれて、先ほど述べた新たな地方分権改革が先送りされるのではないかとの懸念が一部で出ています。私は、地方分権改革をまず断行することが将来の道州制の着実な実現に結び付くものと信じていますので、この点に関する総理の御所見を伺いたい。
 小泉改革の柱の一つになった三位一体改革は、五兆五千億円の国庫補助負担金を減らし、所得税から三兆円、消費税から二兆五千億円、国から地方へ税源移譲すべきと私が総務大臣のとき行った提案が始まりであります。このうち、所得税から個人住民税への三兆円の税源移譲は平成十八年度税制改正で実現しましたが、消費税から地方消費税への税源移譲は実現していません。
 国と地方の仕事量は四対六と地方の方が多いにもかかわらず、税源配分は国が六、地方が四、三兆円の税源移譲を行っても、この割合は国が五五、地方が四五であり、歳入と歳出の乖離は依然として解消されていません。引き続き、国、地方の税源配分を当面一対一とすることを目指し、現在四対一の割合となっている国、地方の消費税配分を見直し、地方への配分割合を拡大する方向で議論すべきであります。
 地方消費税は地域間の偏在が最も少ない基幹税であり、地域間格差を是正していくためにも充実を図るべきだと考えますが、総理の御所見をお伺いしたい。
 公務員制度改革も重要な課題であります。
 これについては、一昨年六月、私が委員長の党の公務員制度改革委員会がまとめ、我が党と公明党が合意した今後の公務員制度改革の取組についてという大綱を政府に示し、これにより、改革関連法案を早急に決定、国会に提出するように申入れを行いました。
 その主要な柱は、能力・実績主義の徹底、天下り再就職の適正化、官民交流の推進等であります。この申入れを受け、政府においても検討が進められましたが、最終的には、労働基本権問題などがあって、政府は法案提出を見送り、今日に至っております。
 公務員制度改革、特に天下りの弊害是正を求める国民の声は依然として大きく、公務員総人件費抑制のためにも是非これを早急に実現すべきであります。その際、公務員労働基本権の問題についてもしっかりとした検討を行い、思い切って発想を転換すべきであると思いますが、総理の公務員制度改革に向けた決意を改めて伺います。
 教育再生は、総理の目指す諸改革の中の言わば本丸であります。教育再生会議の設置も決まり、教育再生担当の総理補佐官も任命されました。いよいよ教育再生は動き出しますが、そこで、総理も言明されているように、この国会の最重要法案として継続審議中の教育基本法の早期成立を期さなければなりません。民主党は、独自の法案を提出し、長期的な課題として審議の長期化を求め、今国会での採決をしない前提で委員会での議論に入る姿勢とも言われております。先延ばしを図る野党の理解をどのように得ながらその成立を図るお考えか、御認識を伺います。
 また、公教育の再生を中心としたその他の教育改革については、いつまでにどのような方向でまとめられるのか、併せて御決意をお伺いします。
 今国会は、新内閣がまず最初に取り組むべき課題は、継続審議の教育基本法改正案を始め、国民投票法案、防衛庁省昇格法案、組織犯罪処罰法改正案、道州制特区推進法案、社会保険庁改革関連法案などの処理であります。これは小泉内閣で官房長官でもあった総理によって成し遂げられなければならないものですし、その他の新しい法案等の成立も図らなければなりません。そして、国会運営はもとより、あらゆる政策決定とその遂行に当たり、政府・与党一体として取り組んでいくことが肝要であります。
 もとより、我が参議院自民党は、総理に対しすべてにつき全面協力いたしますが、一方で、二院制の下、良識の府、再考の府として参議院が有効に機能するため、時には独自性を発揮することも総理に御理解をいただきたいと存じます。
 連立与党を組む公明党におかれても、新しく太田新代表を選出され、まさしく自公による新政権の船出となりました。
 「美しい国、日本」の創造に向けて、安倍新総理を先頭に、自公両党がしっかりとスクラムを組んで邁進し、国民の信頼と期待にこたえることを強くお約束申し上げ、私の代表質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 議院内閣制下における政策決定の在り方についてのお尋ねがありました。
 国会において多数を占める与党が内閣を組織する議院内閣制の下では、政府、与党が十分に連携協力しながら政策、改革を進めていくことが極めて重要であります。私は、これを更に推し進め、政府、与党が一体となり、その英知と識見を結集し、選挙で選ばれた政治家こそが政策決定の主たる責任者たるべしとの信念の下、総理補佐官を任命、活用するなど、官邸で総理を支えるスタッフを一層充実させることにより、官邸機能を強化し、政治のリーダーシップを確立してまいる所存であります。
 内閣総理大臣補佐官と各省大臣との関係についてのお尋ねがありました。
 総理補佐官の仕事は、内閣の重要政策について直接総理に進言や意見具申を行う補佐的なものであり、その内容は総理を通じて実現するものであります。したがって、行政組織の分担管理という面からいって、御指摘のような各省庁大臣との二重行政とはならないものと考えておりますが、いずれにしても、各省庁と十分に連携を取り、政府一体となった行政を推進してまいります。
 各府省の官邸主導への協力の在り方についてのお尋ねがありました。
 私は、世界のグローバル化が進む中で、時代の変化に迅速かつ的確に対応した政策決定を行うため、官邸で総理を支えるスタッフについて、各省からの順送り人事を排し、民間からの人材も含め、この内閣を率いる私自らが人選をする枠組みを早急に構築するなど、官邸の機能を抜本的に強化し、政治のリーダーシップを確立してまいります。
 国づくりのための政治勢力の結集についてのお尋ねがありました。
 私の理想とする新しい国づくりを実現していくためには、御指摘のとおり、幅広い参加と理解を得ることが不可欠であります。ともにチャレンジしたいと願うすべての国民の皆様に参加をしていただきたいと考えています。国会の場においても、同じ理念、同じビジョンを持つ少しでも多くの議員の方々と議論を深め、政策の実現に向けた大きなエネルギーが得られることを期待をしたいと思います。
 家庭と地域社会の再生に向けた基本認識と政策展開についてのお尋ねがありました。
 私は、自分たちが生まれ育ち、そして慣れ親しんだ自然や家族、地域のコミュニティーに対してごく自然な形で帰属意識を実感できるような、そうした社会をつくりたいと願っています。そうした社会の実現に向けて政治がイニシアチブを発揮すべきことは御指摘のとおりであります。
 私自身、国民との対話を何よりも重視し、また、国内外に自らの考えを直接語り掛けてまいる所存であります。そして、活力に満ちた地域社会の創造、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に向けた教育の再生、持続可能な日本型の社会保障制度の構築などの実現に向けて、国民の皆様の幅広い参加を得ながら、全力を挙げて取り組む所存であります。
 自民党の憲法草案及び国民投票法案についてのお尋ねがありました。
 自民党が結党五十年を機に取りまとめた新憲法草案につきましては、私も前文小委員会の小委員長代理として策定作業に携わりましたが、戦後半世紀以上に及ぶ懸案に正面から取り組み、党として一つの考え方を示すことができたことは大きな成果であると考えています。今後、こうした案も踏まえつつ、与野党において議論が深められ、方向性がしっかりと出てくることを願っております。まずは、日本国憲法の改正手続に関する法律案の早期成立を期待します。
 集団的自衛権と憲法改正についてのお尋ねがありました。
 政府としては、これまでの憲法解釈や御指摘のような国会における議論の積み重ねを十分に尊重しつつ、大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘いといった国際情勢の変化や、武器技術の進歩、我が国の国際貢献に対する期待の高まりなどを踏まえ、日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究をしてまいります。
 憲法改正については、与野党において議論が深められ、方向性がしっかりと出てくることを願っております。
 安保理常任理事国入りについてのお尋ねがありました。
 日本が国連に加盟して五十年が経過しました。私は、日本が安全保障理事会の常任理事国となって、その責任を果たしていかなければならないと考えています。戦後つくられた国連を二十一世紀にふさわしい国連に変えていくため、我が国の常任理事国入りを目指し、国連改革に引き続き取り組んでまいります。
 中国、韓国との関係についてお尋ねがありました。
 大事な隣国である中国、韓国とは、あらゆるレベルと分野で対話と協力を積み重ね、双方の努力を通じ、未来志向の関係を築いてまいります。両国との首脳会談については、常にドアをオープンにしてきており、その実現に向けて双方で努力をしてまいります。
 同時に、私は、国のために戦って尊い命を犠牲にした方々に対して御冥福をお祈りをし、尊崇の念を表する気持ちは持ち続けたいと思っています。
 国が違えば認識が違うこともあります。そういうときこそ、首脳同士が会い、胸襟を開いて対話をしていくことが大切であると考えております。
 北朝鮮問題、特に拉致問題に関する政府の方針についてお尋ねがありました。
 拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ません。政府としては、対話と圧力の方針の下、引き続き、拉致被害者が全員生存しているとの前提に立ってすべての拉致被害者の生還を強く求めていきます。そのため、今般、私を本部長として設置された拉致問題対策本部を中心として、政府一体となって拉致問題解決に向けた総合的な対策を推進してまいります。
 ODAにおける海外経済協力会議の活用についてのお尋ねがありました。
 海外経済協力会議では、戦略的な海外経済協力の効率的な実施を図るため、内閣総理大臣及び少数の閣僚を構成員として、海外経済協力の重要事項を機動的かつ実質的に審議することとしております。過去三回開催された本会議では、中国や資源・エネルギー等に関する海外経済協力について審議しておりますが、今後とも、私が主宰する本会議が主体となってODAを戦略的に展開してまいります。
 格差問題をいかに認識し、格差解消、再チャレンジをどのように推進していくのかについてお尋ねがありました。
 我が国は、これまでの改革の成果が現れ、未来への明るい展望が開けてきた一方、都市と地方の間における不均衡や、いわゆる勝ち組、負け組が固定化することへの懸念など、我が国の今後の発展にとって解決すべき重要な課題もあります。やる気のある地方が魅力ある地方に生まれ変わるよう、地方独自のプロジェクトを自ら考え前向きに取り組む自治体に対しては、地方交付税の支援措置を新たに講じます。
 また、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化しない社会、チャンスにあふれ、だれでも再チャレンジ可能な社会をつくることが重要だと考えております。このため、総合的な再チャレンジ支援策を推進してまいります。具体的には、ニートやフリーターの積極的な雇用促進、再チャレンジする起業家の資金調達を支援するとともに、人生二毛作の実現に向け、農林水産業の就業を促進する仕組みもつくってまいります。
 歳出歳入一体改革の見直しを含めた今後の財政構造改革についての御質問がありました。
 基本方針二〇〇六においては、今後五年間の財政構造改革について政府、与党一体となって徹底した検討を行った結果として、各分野における取組の具体的内容と金額が定められたところであります。したがって、今後は基本方針二〇〇六に定められた具体的な取組を着実に実現していくことが私の大きな使命であると考えており、平成十九年度予算においては、今後五年間の新たな改革の初年度にふさわしい予算となるよう、徹底した歳出削減に取り組む必要があると考えております。
 歳出歳入一体改革における柔軟性、実現可能性等についてのお尋ねがありました。
 今後、基本方針二〇〇六に定められた方針に沿って、各分野において五年間の歳出改革を計画的に実施してまいります。その際には、御指摘のように、その時々の経済社会情勢に配慮しつつ、プライマリーバランスの黒字化目標の達成に向けた現実的な対応を取るため、毎年度、必要な検証、見直しを行うこととしております。こうした点に配慮し、経済の持続的成長と財政健全化を両立してまいります。
 いずれにしても、歳出削減が不徹底ならばその分だけ国民負担が増加することとなるため、国民負担の最小化を第一の目標に、歳出削減を徹底しゼロベースの見直しを行ってまいります。
 消費税についてのお尋ねがありました。
 我が国財政は極めて厳しい状況にあり、成長なくして財政再建なしの理念の下、経済成長を維持しつつ、国民負担の最小化を第一の目標に歳出削減や行政改革を徹底してまいります。
 このような改革を徹底して実施した上で、それでも対応し切れない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保するため、抜本的、一体的な税制改革を推進し、将来世代への負担の先送りを行わないようにします。消費税については、このような抜本的、一体的な税制改革の中で議論を行っていく必要があると考えております。
 現在の諸情勢を勘案すれば、十九年度予算の歳出削減の状況、来年七月ごろに判明する十八年度決算の状況、医療制度改革を踏まえた社会保障給付の実績等を見る必要があり、これらを踏まえて税制改革の本格的、具体的な議論を行うのは来年秋以降になると考えております。
 いずれにせよ、財政再建の重要性にかんがみ、平成十九年度予算については従来の改革努力を継続し、徹底した歳出削減に取り組んでまいります。
 地方分権改革についてお尋ねがありました。
 地方の活力なくして国の活力はありません。やる気のある地方が自由に独自の施策を展開し、魅力ある地方に生まれ変わるよう必要な体制となる整備を含め、地方分権を進めます。政府では、そのための推進法案を今国会に提出すべく準備をしています。そして、地方分権に向けて、関係法令の一括した見直し等により国と地方の役割分担の見直しを進めるとともに、国の関与、国庫補助負担金の廃止、縮小等を図ってまいります。
 道州制と地方分権改革についてのお尋ねがありました。
 現在、政府では地方分権を推進するための法案を今国会に提出すべく準備をしておりますが、私は地方の活力なくして国の活力なしと考えており、知恵と工夫にあふれた地方の実現に向け、今後とも正に地方の自律と責任を確立するための取組を行ってまいります。こうした地方分権改革の着実な実施が将来の道州制の本格的な導入につながるものと考えております。
 地方分権に向け、地方消費税の充実についてのお尋ねがありました。
 地方分権に向けて、関係法令の一括した見直し等により国と地方の役割分担の見直しを進めるとともに、国の関与、国庫補助負担金の廃止、縮小を図ります。
 地方税については、国、地方の財政状況を踏まえつつ、交付税、補助金の見直しと併せ税源移譲を含めた税源配分の見直しを行うなど、一体的な検討を図ります。
 なお、地方の果たす役割を踏まえ地方消費税の充実について御指摘がありましたが、地方消費税の在り方については、地方分権の趣旨や地域間格差是正の観点も含め、ただいま申し上げた方針の下で検討されていく問題であると考えています。
 公務員の再就職、公務員制度改革についてお尋ねがありました。
 私は、世界のグローバル化が進む中で、時代の変化に迅速かつ的確に対応した政策決定を行うため、官民を問わず優秀な人材を登用する枠組みを構築することが重要と考えています。
 公務員の再就職の問題を考えるに当たっても、官の人材が民に出て活躍をしたり、また民の経験を経た者が官の中でその能力を発揮をするなど、国全体における官民の人材交流、人材活用の重要性を十分考慮する必要があります。一方、再就職後の公務員の不正な行為に対しては、厳正なる対処をする必要があります。
 このような視点に立って、前行政改革担当大臣からいただいた提案を踏まえ、公務員制度改革全体の中で改革案を検討してまいります。
 また、公務員の労働基本権に関連する問題については、行政改革推進本部専門調査会で様々な角度から検討を始めており、その方向を見極めたいと考えています。
 教育基本法についてお尋ねがありました。
 新しい時代の教育の基本理念を明確に提示をし、国民の共通理解を図りつつ、社会全体による教育改革を着実に進め、我が国の未来を切り開く教育を実現するにふさわしい法案として政府として教育基本法を前国会に提出したところであります。
 政府としては、今国会における政府提出法案の成立を期して取り組んでまいりますが、教育再生が国政の最重要課題であるという共通した認識の下、国会において、民主党提出の日本国教育基本法案とともに、活発な議論が行われることを期待をいたしております。
 教育改革についてお尋ねがございました。
 私が目指す「美しい国、日本」を実現するためには、次世代を背負って立つ子供や若者の育成が不可欠であります。教育再生を国政の最重要課題の一つとして位置付け、直ちに取り組んでまいります。
 まずは、今国会における教育基本法案の成立を期してしっかりと取り組んでまいります。
 また、すべての子供に高い学力と規範意識を身に付ける機会を保障するため、公教育を再生します。具体的には、教員の質の向上に向けて教員免許の更新制度の導入を図るとともに、質の高い教育を提供できるよう外部評価を導入します。
 このため、内閣に教育再生会議を早急に発足させ、その推進を図ります。(拍手)
○議長(扇千景君) 質疑はなおございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(扇千景君) 御異議ないと認めます。
 本日はこれにて散会いたします。
   午前十一時五十二分散会

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